映画 マイマイ新子と千年の魔法 のレビュー

5/5 投稿者: 中ぴ連会長 - 投稿日: 2010/02/07

 何だか判らないけど泣ける作品――この映画について簡潔に説明しようとすると、結局このフレーズに集約されてしまう。

 舞台は昭和三十年代の、かつては周防国の国府があった山口県防府市。芥川賞作家の原作者・高樹のぶ子氏自身をモデルにした、千年前の平安時代にまで想像力を馳せることが出来る小学生・新子と、それを取り巻く子供たちの心の軌跡を、叙情豊かに描いた作品である。
 調査マニアの片渕監督はロケハンで防府を三回(!)訪れており、豊富な各種資料を元に昭和三十年代の防府をスクリーン上に鮮やかに蘇らせた。画の一つ一つが美しく、高級感が漂っている。
 映画の終盤はそれまでの予定調和を覆すような展開が待ち受けており、子供はいつまでも子供の世界にとどまってはいられない、という非常に苦い――そして大人の誰もがかつて味わったであろう現実を突きつけられるが、新子は自分の空想を大切にし続け、爽やかに物語は締めくくられる。
 音楽はスキャットが多用されており、それがオーケストラに移り変わっていくダイナミックさが、千年前と現在を自由に行き来する新子の心象風景を見事に表現している。
 何だか判らないけど泣ける――その《何だか判らない》ものの中に、人として大切なものがおもちゃ箱のように詰められているのではないだろうか。
 是非ともハンカチを忘れずに映画館まで足を運んでもらいたい、地味だけど良質な作品である。